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陶磁器論

粘土から陶器へ  

 陶芸家には釈迦に説法と聞こえるかも知れないが、粘土を高温で焼けば、何故陶器になるのか、正確に答えられる人は少ないのではなかろうか。唐津焼のことを研究していて、そう思うようになった。そこで、粘土(陶土)が窯の中でどのようなメカニズムで陶器になっていくのか、概略を解説する。粘土は様々な手法で成型され、乾燥を経て素焼される。その後、釉薬を施し高温で焼成する。手順にすれば以上のようなことになるが、工程の一つ一つの意味について、正確に理解することなしには、粘土から陶器に変身する流れを把握することは出来ない。  

まず粘土を成型することから始まるのであるから、成型に必要な条件を考えてみる。粘土に不可欠な条件は可塑性である。可塑性が良好でなければ成型することが出来ないのだから、これは絶対的条件である。では、可塑性の素は何であろうか。粘土は乾燥すれば可塑性を失う。つまり、粘土から水を取り除けば可塑性は消滅する。この事実から引き出される結論は一つ。粘土に可塑性を与えている原因物質は水である。

粘土(陶土)の中にある水には三種類の水があって、それぞれ可塑性の発現に影響しあっている。  

三種類の水とは、自由水、結晶表面の拘束水、結晶に取り込まれた結晶水である。自由水とは、粘土結晶粒子間を埋めていて、文字通り自由に付いたり離れたりすることの出来る水を言う。乾燥工程で蒸発するのはこの水である。そして可塑性の直接の原因物質でもある。

次に結晶表面の拘束水がある。拘束水は粘土結晶の珪酸基と水の水酸基が結びついたもので、通常の乾燥工程では蒸発しない。この拘束水を蒸発させるには、およそ200℃程度の熱エネルギーが必要である。この拘束水と自由水の水素結合による水幕の形成があって、粘土粒子が互いに引き合う力が生まれる。これが可塑性の実態である。  

粘土結晶を落ち葉に例えれば理解し易い。落ち葉の全面に薄く満遍なく水がついている状態を想像してほしい。落ち葉は互いにくっつきあい固まりとなる事が出来る。このときの水の量が重要で、多くても少なくてもいけない。極めて薄く満遍なく葉っぱ全体に膜となるように付いていることが必要である。ところが、植物の葉っぱには水を跳ね返し濡れない葉っぱがある。蓮の葉やキャベツなど挙げることが出来る。これは葉の表面に水を跳ね返す仕組みがあって濡れないから、水を介してくっつき合うことが無い。  

粘土は極小さな結晶であるが、可塑性発現の仕組みは落ち葉の例と変わらない。ただし、粘土の構造は落ち葉と違い、少し複雑な構造をしている。これも例えれば、クリームサンドビスケットと思えばよい。粘土は二層あるいは三層のクリームサンドビスケットである。ビスケットとビスケットに挟まれたクリームの部分が結晶水である。

その水の中にプラスの電荷をもつイオンを取り込んでいる。多くは土類金属イオンであるが、そのイオンを粘土結晶層間に架橋したイオンという。このイオンの存在は粘土の性質に大きな影響を与えているのである。  

粘土は本来可塑性を持っている構造をしている。可塑性の無い粘土は、粘土結晶表面が水に濡れにくい状態にあり、安定した水膜を作れないことが原因である。可塑性改善を目的にした粘土の改質とは、粘土表面を水に濡れ易い状態にすることである。

可塑性を阻害している原因は色々あるが、多くの場合、硫酸根などマイナスイオンを持つ物質で粘土が修飾された場合が挙げられる。修飾とは化学用語で分り難いが、平たく言えば牡丹餅のようになった状態と思えばよい。そしてまた多くの場合、微生物の生活反応を利用して、可塑性を阻害している物質を取り除き、劇的に可塑性を発現させることが出来る。可塑性を構成している最大の要因は、粘土表面の水に濡れやすい性質であるが、もう一つは粒度構成である。粒度構成はある特定の粒度に分布が偏ってはいけない。広く分布することが必要である。

これも、コンクリートを例に取れば理解し易い。コンクリートは、セメント、砂、バラス、および水を混合して作る。粗いバラスとバラスの間を少し小さいバラスが埋め、その隙間を砂が埋め、そのまた隙間をセメントが埋める構造になっている。 砂とセメントだけでは、薄く塗る事はできるが、厚く形のあるものはだらだらして作れない。粘土((陶土)も略同じであると思えばよい。  

可塑性が確保できれば次は成型である。可塑性に 可塑性に富んだ陶土は、成型に苦労することは無いが、乾燥には注意する必要がある。粘土分は性質上、膨張収縮が大きい。性急な乾燥は、変形や亀裂をもたらす。磁器土や唐津焼の土のように、硅石や長石の多い陶土は、乾燥収縮が比較的小さいので、粘土分の多い備前土などに比べると乾燥が楽である。

乾燥した成型物は素焼きに回す。素焼きは本焼きより難しいと言われてきた。ところで素焼きすると言う事は何をしている事だろうか。何故素焼きするのか。何が難しいのか。分っているようで分らない事が多いのである。

素焼きする事で起きる変化は、

@ 成型物から二種類の水、拘束水と結晶水が完全に追い出される。その結果として粘土は粘土で無くなる。 粘土は粘土結晶自体の中に水を持っていて粘土であるから、水を失ったものは粘土では無い。

A 水が粘土や他の物質から離れるとき、発熱と収縮が起きる。拘束水は200℃近辺、結晶水は500℃から800℃にわたる広い温度帯で脱水する。この変体点では体積の収縮が起きるので、急激な温度の変化は成型物の破損につながる。拘束水の脱水は略一定であるが、結晶水は粘土の種類によってまちまちであり、外観で判断する事は出来ない。この変体点を知る上で最もよい方法は熱分析である。

B 素焼きをした成型物は施釉して本焼きする。本焼きでは、焼〆と言われる無釉のものを除いて釉薬が掛けられている。釉薬の成分は胎土の成分に似ていて、胎土の耐火度よりSK5番低いところで解けるように調整する。  

 

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